インバさんちの過去ログ。
バレンタインペーパーの続き。 パラレル注意。。

 

 

コイビトのソクバク。

 

「なぜあの程度の質問でうろたえるんだい、阿散井くん」
「うっせえな、石田っ! つい反応しちまったんだよっ」

 数誌分のインタビューを終え、恋次と雨竜はスタジオの狭い廊下を歩く。
 ユニットを組む恋次には子供の頃から 片思いしている人がいる。
 あこがれや尊敬が入り交じって崇拝に近い恋だった。

 「今、恋をしてる?」の問いにまともな受け答えが出来ない位。

(でも助かったな…)

 挙動不審になった恋次のおかげでごまかせたが、実は雨竜自身もうろたえていた。

 茶渡とはお互い忙しい芸能生活の中、 二人の時間をなかなか増やす事が出来ない。
 電話で話したのは八日前、会ったのは一ヶ月前だ。

(茶渡くんは僕に会いたくならないのかなあ。大して想われてないとか)

 告白した方だから、ふられる恐れも強い。
 無口な彼の気持ちを表情から推し量るのも難しく、ため息をついた。

「辛気くせえツラ」

 雨竜の頬を恋次が指でつつく。
 ユニットを組む様になってから、乱暴な恋次の言葉は優しさの裏返しだとだんだん分かってきた。

「ユニット相手が君でよかったかも」
「なんだよ、薮から棒に」
「黒崎よりはマシかなって…」

 黒崎一護とは顔を合わせる度になぜか ケンカになってしまうのだ。
 決して嫌い なわけではないのに。

「オレ帰るわ。またな」
「阿散井くん?」

 ふいに恋次が慌てて走り出した。

「何だろう…あ! 茶渡くん!」

 すぐ横の出演者控え室から茶渡が出てきた。
 雨竜と目が合うと手招きをして誰もいない室内へ呼び込む。

 雨竜は嬉しくなって茶渡の広い胸に飛び込んだ。
 背後でドアの閉まる音がする。

「君もこのスタジオで撮影だったのかい?  僕はさっき東京に戻って来たんだよ。 今朝、君に電話したんだけど…」
「…ロケ中だった」

 矢継ぎ早に話す雨竜を太い腕が抱きしめた。

 首すじに顔を埋め、ぬくもりに身を委ねる。しかし……。

「どこ触ってるんだっ、茶渡くん!」

 シャツの中に手を入れてきた茶渡が、 迷う事なく雨竜の弱点を探り当て指を這わす。
  ボタンを外すもう一方の手は少し乱暴だった。

「あ…!」

 行為に慣れていない上、久しぶりの愛撫に、敏感な雨竜の躯は大きく跳ねる。

 硬い掌が背中を撫で上げ、ゾクッと 震えた瞬間、太腿の間に茶渡の脚が入り込んできた。
 意図的にそこを揺らされ、程なく熱くなるであろう場所を強く意識する。

「こんな所じゃ…」

 廊下から聞こえる音が気になって抵抗すると拘束は一層強まった。
 腰骨を 掴まれ、引き寄せられ膚が密着する。

「阿散井と上手くやっている様だな」

 キスの手前まで唇を寄せてきた茶渡が唐突に恋次の名を出した。

「え…あ、ああ、うん」

 訪れない唇を待って見上げた茶渡の情がどこか不機嫌だ。

「……君、もしかして…」

 問いかける瞳を避け、茶渡の唇は細いうなじへ移動してしまった。

「…すまん、何でもない」

(もしかして嫉妬してる…?)

 押さえ込まれていた手を外し、茶渡の髪を撫でる。
 一房掴んでこっちを向かせると赤らんだ目元が照れくさそうに見つめてきた。

「会えなくてさみしかった?」

 無言で小さく頷く茶渡も自分も同じ 不安を抱えていたようだ。
 雨竜は晴れ晴れとした気持ちで茶渡に口付ける。

「僕にもキスしてくれ」

 触れるだけの口付けをした雨竜に対 し、茶渡は舌を絡めて深く長いキスをした。

 それがただ嬉しかった。

 

 

 

end.