インバさんちの過去ログ。
たしかバレンタインペーパーでした。 パラレル注意。

 


ばれんたいん。

 

 

「ぼろぼろじゃないか!」
「大丈夫だ」

 ここは都内某所の撮影スタジオ。今はBLEACHというドラマを撮っていた。
 脇役で出演しているのが石田雨竜と茶渡泰虎だ。

「いくら頑丈な躯でも気をつけないと。ほらシャツのボタンを開けて」
「あ、ああ…」

 役柄に添うような性格の二人は、カメラが回っていなくても大型犬と飼い主のような関係だった。
 無口な茶渡につい世話を焼いてしまう雨竜。

「大きなケガは無いようだね」
 先程茶渡は敵に切られるシーンを撮り終わった所だ。
 敵役の俳優にサドっ気があり、演技に熱が入りすぎたフリをして茶渡を嬲っていた。

 撮影を見学していた雨竜はカットの声がかかると同時に傷だらけになった茶渡を自分の控え室に連れ込む。

「まったく。やり過ぎだ、彼は」
「……」

 実家が大病院のためか、雨竜の処置は的確で迷いがなかった。
 流れるような手付きに見とれていた茶渡は頬が熱を持ちはじめた事に気付いて焦る。

「石田、自分でするから…」
「次は背中の傷だよ。君は自分で出来るのかい?」
「……」

 茶渡泰虎は嘆息して雨竜に背中を向けた。

 いつも自分は目の前の生き物に逆らえない。
 背中に当たる冷たい手や、微かな吐息。
 意識し過ぎて体温が上がる。
 雨竜のすべてを知りたい衝動が体内を駆け巡る。

「終わったよ、こっちを向いて」
 茶渡は目を合わせないよう、うつむいて体の向きを変えた。
 すると突然目の前に差し出されたチョコレート。

「え…」
「少し出血したし、疲れているようだから…」

 きれいな箱に数粒のチョコが入っていて、雨竜はその一粒を摘んで茶渡の口元へ押し付けた。

「くち、開けて」

 言われた通りにすると、ころん、とチョコが舌の上に乗り、ほろ苦い甘さが口内に広がった。

「美味しいだろう?」
 頷く以外の答えを許さない声音が目前から聞こえる。
 伏せた目を上げると至近距離に綺麗な顔があった。

「いい出来だと自分でも思うよ」
「石田が…作ったのか」
「そう聞こえなかったかい?」

 雨竜の黒い瞳が茶渡を真っ直ぐ射貫いた。
 強い口調と視線の裏に見えるかすかな不安の色。

「味見もしたし、試作品だって完璧だったんだ」
「……」
「溶けない様に持ってくるのも大変だったんだぞ」

 言い募る雨竜の顔が紅潮し始め、目元が潤んできた。

「か、感想とか言えよ!」
「……いいか?」
「え?」
「うぬぼれて、いいか…?」

 茶渡は上体を雨竜の方へ寄せた。
 さらに近付いた雨竜の瞳が一瞬瞠目し、そしてホッとした様に微笑む。

「いいよ」

 茶渡はゆっくりと華奢な身体を引き寄せた。

 

 

end.